学校法人城西大学 欧州研究センター Josai Center for European Studies

国際学術文化振興センター(JICPAS)

ヨーロッパを学ぶ・楽しむ

地域研究「国際交流−欧州と日本」の授業について

2017.4 久米五郎太

5月を目前に、町はハナミズキからつつじへと色が鮮やかになってきた。国際アドミニストレーション研究科での国際交流の授業もはや4週目に入る。欧州研究センターの発足を受けて、昨年度から春学期に開講している、欧州(西欧を中心)と日本との交流を扱う科目である。

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マスターの学生を対象に、授業は英語。昨年の聴講者は11名、アジアの学生が中心で、欧州はオランダ(EUの原加盟国)とノルウエー(EFTA加盟国)の2名であった。今年は最終の履修者名簿がまだ手元に来ていないが、大きく増えて30名前後。欧州出身の学生はポーランドとリトアニア(ともに2004年にEU加盟)、他は日本人、中国人が各一人、ネパールが複数名いるが、残りはほとんどがアセアンからである。専攻も地域研究、企業経営、観光に関心のある国際アドミニストレーションの学生以外に、国際人文人文科学研究科の学生も初めて参加し、ヤヤサン・プログラムの社会人女性留学生の他、アセアン・女性リーダーシップ・プログラムの学部の留学生も出席している。
  毎年のことだが、学期はじめは教師にとってはいささか悩ましい時期である。どの科目をとっても、学期ごとに学生の関心や基礎知識のレベルを把握し、それを授業内容に反映させ、同時に関心を持たせ、理解をさせ、中間の発表・テストそして最終エッセイにまで引っ張っていかねばならない。特に今年のクラスはいままでになく大人数、教室のすべての席に学生が座っているし、関心が広がっているので、文化の側面への配慮も欠かせない。
  教える側としては、しばらくは短い質問を頻繁にしつつ、積極的に発言する学生や少し深いコメントをする学生を早めに探し出し、授業中のやりとりを通じ、学生をある程度緊張させ、かつ楽しませるようにしたい。たとえば、ほとんどの学生はルネッサンスという言葉を聞いたことがないという。宗教画を見せ、ボッティチェリのヴィーナス誕生のスライドを見せなければいけない。

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15回の授業は、昨年同様に三部構成—欧州の歴史、EUを中心とする欧州の現状、欧州と日本との交流—で始めている。第一部の欧州の歴史は、1990年代に入ってから英仏では各国史の延長というより、欧州としてのまとまりと分裂に焦点をあてた、いわば一つの欧州を扱う本が出ているし、独仏の共通歴史教科書もある。それらを参考にひとつの欧州の形成を縦糸に、歴史や思想、政治経済面での各国間の相互の影響・交流を横糸に整理し、過去の遺産、中世、近代と進めてきた。世界史や欧州史をあまり学んでいないアジアの学生にとっては、この第一部は必須の基礎知識だと考えるが、大きな流れを押さえ、できるだけ地図や映像を使って学生の関心を引きつけることに主眼を置こう。
  春から夏は第2部の欧州の統合の成り立ちや発展に思いをはせるのにふさわしい時である。パリなど欧州では美しい5月は、春の始まりを祝い、スズランを贈るメイ・デイから始まり、マロニエの花が咲くなかで、8日は第二次大戦戦勝日(VE デイ)、翌9日はヨーロッパ・デイを迎える。今年は5月8日にはフランスの新大統領が決まり、戦勝日に最初の凱旋門の式典でオランド大統領の横にたつはずである。後者は日本ではあまり知られていないが、ロベール・シューマン仏外相が1950年に欧州石炭鉄鋼共同体の設立を訴える宣言をし、後の欧州経済共同体、欧州連合の発足につながった日である。復活祭から40日目のキリスト昇天祭やその50日目の聖霊降臨祭(五旬節)は連休になり、人びとは春から初夏を楽しむ。そして7月にはアメリカの独立、フランス革命の二つの記念日があり、8月に入ると100年以上前のことだが大戦争(第一次大戦)が勃発した日を人びとは思い出す。歴史を踏まえた現在の問題が頻繁に話題になる時期である。
  EUは3月にはローマ条約調印から60年を祝ったが、そのあと英国離脱の交渉が始まっている。8月にはASEANがバンコックで設立を宣言してから50年を迎える。このふたつの地域は過去の歴史も統合のスピードも違うし、文化や政治体制の一体性についても差異が大きいが、両者を比較することは学生にとって地域統合の理解を高めるいい機会になろう。

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欧州は近代日本にとってはどんな存在だったのであろうか? 第3部はこの問いから始まる。阿片戦争の恐怖を感じた幕末の日本は安政の開国に踏みきり、明治に入ってからは英仏独から近代の国作りの思想や制度を学び、富国強兵を進め、文化を発展させた。
  G.B.サムソムやM.B.ジャンセンは外国人研究者の立場で日本の近代化を説明するが、最近岩波新書で出た、三谷太一郎著「日本の近代とは何であったか」の議論も今年は紹介してみよう。同書は、近代日本は主として英国を中心とする欧州から、議論をする統治(民主主義)、貿易による資本主義(経済力強化)を学び、植民地支配もめざし、キリスト教の代わりに天皇制をおいたという議論を展開している。こうした問題意識は今の学生諸君にはどの程度理解されるだろうか。大時代的と受け取る向きもあろうが、日本の近代は欧州を深く研究し、それを活かしてきた歴史という側面が強いことは強調したい。
  半世紀前、私が大学で学んだ頃には、大学の教養学科には英仏独米の4つの地域研究と横断的な国際関係の5つの分科があった。先生たちはほとんどが欧州留学組だが、欧州という括りはあまりなされずに、米国研究はまだ新興といった受け止め方が一般的という時代だった。当時は帝国主義論や第一次大戦の授業を受け、国際通貨ポンドがいかに役割を失ったかもテーマのひとつであった。文化面では学生の教養は実存主義哲学やヌーベルバーグ映画、ギリシャ悲劇や劇団四季のフランス現代劇も人気だったといっても現代の若者にはピンとこないかもしれない。

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第二次大戦後の欧州は植民地を失い、ナショナリズムからリージョナリズムへと大胆に方向を切り替え、相互に貿易や投資を緊密化させ、長い歴史のなかで民族やジェンダーの多様性を吸収し、文化的にも経済的にも豊かな生活を送っている。2004年以降は旧共産圏諸国もEUに加盟し、欧州の一体化が進んだ。近年では、イスラム過激派のテロリズムの被害を受け、移民受け入れに抵抗も増え、ナショナリズムも一部復活しつつあるものの、総じてみれば単一市場をつくり、国を開き、自由主義や民主主義を享受しているといえる。アジアの多くの国は欧州の植民地であった時期も長く、日本軍の進駐も受けた。日本を含むアジアや欧州の学生には、そうした歴史を知り、交流の現在を知ることで、自分たちの将来を考える材料を見つけ出すことを期待したい。
  新緑のゴールデンウイークの中で、抱負を少し新たにしている。


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