学校法人 城西大学 Josai University Educational Corporation

学校法人城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリー


1955年に北海道で採集された魚類化石、正体明らかに!

1.はじめに
 北海道中軸部に分布する白亜系蝦夷層群はアンモナイトや二枚貝類など豊富な海生軟体動物化石を多く産出することが知られています。また、首長竜やモササウルスなどの海生爬虫類、サメ類の化石のほか恐竜類 も産出することが近年明らかとなり、東アジア縁辺部の白亜紀における生物相を理解する上で重要な地層となっています。
 今回、 1955年に北海道の三笠地域で採集され、その後、東京大学総合研究博物館で収蔵されていた魚類化石標本について、宮田真也(城西大学)、籔本美孝(北九州市立自然史・歴史博物館)、中島保寿(東京都市大学)、伊藤泰弘(九州大学総合研究博物館)、佐々木 猛智(東京大学総合研究博物館)の研究グループが研究を進めた結果、ナカガワニシン(Apsopelix miyazakii)の第二標本であることが明らかとなり、2022年4月発行の日本古生物学会欧文誌「Paleontological Research」で発表されました。

ナカガワニシン(Apsopelix miyazakii)の化石産地(Takashima et al., 2004を改変)。濃緑色の部分が白亜系蝦夷層群。


2.標本の由来
2012年、第3著者の中島(当時、東京大学大学院生)が東京大学総合研究博物館(東京都文京区)の収蔵庫で歴史的に重要な標本として保管されていた化石の整理を行っていたところ、非常に保存状態の良い魚類化石が他の化石標本と一緒に収蔵されていたことに気が付きました。そこで中島は魚類化石を研究していた第一著者の宮田(当時、早稲田大学大学院生)に相談し、共同研究がスタートし、ナカガワニシンの命名者である籔本(北九州市立自然史・歴史博物館)をはじめ、伊藤(当時、東京大学総合研究博物館)、佐々木(東京大学総合研究博物館)も加わり、多角的な研究が開始されました。解析の結果、この化石はこれまで1例のみ知られている化石魚類「ナカガワニシン」の第2標本であることがわかりました。また標本と一緒に保管されていたラベル情報に基づき、確実な化石の産地や層準を特定することができました。この標本は1955年に松本達郎博士(当時:九州大学教授)らによって奔別川流域で採集されたもので、この地域はナカガワニシンのホロタイプ(第1標本)の産地から約200 km南にあたります。奔別川流域についてはこれまでに詳細な地質・古生物学的な研究がなされており、魚類化石の発掘された地層の年代については後期白亜紀チューロニアン期後期(約9000万年前)であること、また堆積した環境については陸棚域であることが分かりました。このように、ラベルについた情報から文献をたどることで、生息していた環境と年代についての情報が詳細に分かりました。
標本に付随していたラベル (Miyata et al., 2022より引用) 。
北海道空知郡三笠町(現在の三笠市)奔別川の流域のIK2013g1露頭で採取されたことを示す。

3.標本の特徴、学術的意義
 標本は腹部から頭部までほぼ完全に立体で保存されており、生息時は37-39㎝程度の大きさであったと見積もられます。これはナカガワニシンのホロタイプ(第1標本)よりも10 cmも大きいことになります。また、鰓蓋骨や眼下骨などホロタイプに完全には保存されていない部位も観察され、本種のより正確な特徴を残した標本であることが分かったため、本種の標徴 (生物種を定義するために、主要な形質を記述したもの)の改訂を行いました。 Apsoperix属は条鰭綱クロッソグナスス目(絶滅)に所属し、現在北海道の中川町の佐久層から産出するナカガワニシンApsopelix miyazakiiのほか北米やヨーロッパの白亜紀の地層から産出するApsopelix agilisが知られています。今回の発見は、東アジア地域におけるクロッソグナスス目の2例目の報告となり、後期白亜紀チューロニアン期における東アジア縁辺部の広い範囲で本種が分布していたことが明らかとなりました。また、本種は外洋の陸棚域に生息していた事が明らかとなり、古生態学的な知見も得ることができました。
本研究で用いたナカガワニシン(Apsopelix miyazakii)の第二標本(Miyata et al., 2022より引用)。
立体的に保存されており変形も少なく、骨の細部まで保存されている。

4.本研究の社会的意義
 今回の化石標本の学術的価値は、故・松本達郎博士が調査地点の正確な情報をラベルとして書き残し、さらに博物館の学芸員が標本とラベルを適切に保管してきたからこそ失われなかったものです。今回の発見においては、一見すると地味にも思える博物館の資料収集・保存といった活動が、いわば「知のリレー」として機能したことで最新の研究成果につながったといえます。またこのことは、博物館が継続的に活動し調査研究を行うことの重要性を再確認させる成果となりました。
 日本列島では魚類化石が豊富に産出し、各地の博物館や大学などの教育研究機関にて保管されているものの、ほとんどの化石標本が未研究であるため今後も継続的な研究を行う必要があります。特にナカガワニシンの化石が産出した北海道では、各地の博物館が中心となって町おこしも行われています。このような地質古生物学の研究を積み重ねることで、地域の教育資源・文化資源の充実が図れるものと期待されます。

5.その他エピソード
 本研究で用いた化石を採集した松本達郎博士は、第1著者の宮田と標本の再発見者で第3著者の中島の学生時の指導教官の指導者にあたります。詳細なラベルが付随した保存状態の良い化石標本は、半世紀以上あとに孫弟子らによって研究されました。

論文:Miyata, S., Yabumoto, Y., Nakajima, Y., Ito, Y., and Sasaki, T., 2022. A second specimen of the crossognathiform fish Apsopelix miyazakii from the Cretaceous Yezo Group of Mikasa area, central Hokkaido, Japan. 
(日本語訳:クロッソグナスス目魚類Apsopelix miyazakiiの第二標本)

掲載雑誌: Paleontological Research 26巻 2号
論文URL:https://doi.org/10.2517/PR200024

詳細についてのお問い合わせは下記にお願いします
連絡先:宮田真也(城西大学)
電話:03-6238-8412(化石ギャラリー受付)
メールアドレス:fossil_gallery@yahoo.co.jp


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