学校法人城西大学 水田記念図書館 大石化石ギャラリー Oishi Fossils Gallery of Mizuta Memorial Museum・Josai University Educational Corporation

学校法人城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリー

Arisona State University      Josai

太古の昔、魚の群れを制御していた行動ルールの発見

鳥や魚、昆虫の集団が見せる協調した群れ行動は、動物の行動が作り出すパターンのなかでも、ひときわ目を引くものです。この様々な分類群で見られる集団行動は、いったどれほど昔から存在し、どのように進化したものでしょうか。タイムマシンがない以上、絶滅した動物たちの生態を示す唯一の直接な情報源となるのは化石です。しかし、これまで過去の生物の集団行動の証拠を示す化石は見つかっていませんでした。

水元惟暁 アリゾナ州立大学研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、宮田真也 学校法人城西大学大石化石ギャラリー学芸員、Stephen C Pratt アリゾナ州立大学准教授の研究グループは、魚の集団が保存されている化石を解析し、その中から、群れ行動に必要な行動ルールの痕跡を発見しました。今回の研究成果は、絶滅した種の協調した集団行動を示す初めての証拠を示した点で重要な意味を持ちます。本研究成果は、イギリス時間で5月29日、英国王立協会の学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されました。

Erismatopterus levatus


図1: Erismatopterus levatusの群れの化石(福井県立恐竜博物館所蔵標本)。
協調した集団行動の痕跡を残している。
写真: 宮田真也 (学校法人城西大学大石化石ギャラリー)撮影。

本研究では、福井県立恐竜博物館内の標本(FPDM-V8206)である絶滅種Erismatopterus levatusの化石に着目して解析を行いました(図1)。この標本は、アメリカ合衆国のグリーンリバー層(Green River Formation)から産出したもので、約5000万年前(始新世)に湖で形成されたものと考えられています。この標本には259体の幼魚が保存されています。解析ではまず、群れ行動が瞬時に固定され、各個体の位置と方向が生きている状態を保存しているものと想定しました。そして、それぞれの個体を向いている方向に少しずつ動かすことによって、化石に保存された状態の次の瞬間に何が起きるかを推定しました。具体的には、それぞれの個体からみて、一番近くにいる他個体との距離関係が、次の瞬間にどのように変化するかを調べました。その結果、近くの他個体との距離がより離れている場合には、次の瞬間には近づき、距離がより近い場合には、遠ざかることで衝突を回避する傾向があることが分かりました。つまり化石には、接近と衝突回避という行動ルールの痕跡が残されていました。これらの2つの行動ルールは、現生の魚の群れにおいても重要な要素です。

更に、この化石化された魚の群れの構造もまた、現代観察される魚の群れと共通の性質を持っていました。群れ全体の形は進行方向に延びた楕円形を示し、またそれぞれの身体の向きは群れ内で同じ方向に整列されていました。以上の群れ行動の性質は、捕食者回避において重要な役割を持つと現生の魚で示されています。そのため、Erismatopterus levatusは始新世における湖で高い捕食圧にあったと考えられます。実際に、グリーンリバー層では、ナマズを始めとした多くの捕食性の魚やワニの化石も産出しています。

これまでの研究で、同じ方向に整列した魚の集団の化石は、集団行動ではなく、水や風の流れによって魚の死体が集められたことにより、生じたと考えられてきました。しかし、このようなプロセスでは、群れ行動の化石の生成を説明することは難しいと考えています。本研究ではさらに、流れという受動的なプロセスにより作られるパターンを調べるために、全ての個体が同じような方向を持つパターンを大量にシミュレートして、これらにも行動ルールの痕跡が現れるかどうかを調べました。しかし、このようなバーチャルの化石には、本物の化石で見られた行動ルールの痕跡は確認されませんでした。そのため、本解析に用いた化石は魚の行動を少なからず反映したものだと想定されます。

動物のコミュニケーションや集団行動は化石にほとんど残らないと考えられていたため、その進化プロセスを確かめることは困難でした。本研究では、群れ行動も化石から推測できる可能性があることを示した点で大きな意義を持ちます。一方で、魚の群れがどのようなプロセスで化石となったのかについては、本研究では謎のままです。この研究を皮切りに、集団行動学の視点が化石研究に取り込まれ、多くの化石が解析されれば、どのように群れの化石が作られたか、更には群れ行動の起源についても明らかにになると期待されます。

論文タイトル:
Inferring collective behaivour from a fossilized fish shoal

著者:
Nobuaki Mizumoto, Shinya Miyata, Stephen C. Pratt

掲載誌名:
Proceedings of the Royal Sociery B


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