精神分析の父フロイトとイタリア、この意外な取り合わせにいったいどんな秘密が隠されているのだろうか。
精神分析はイタリアで生まれた、とまで言い切るには、さすがにかなり勇気がいるとしても、フロイトとイタリアのあいだには、これまであまり注目されてこなかった深い関係があったのである。精神分析の誕生を告げる記念すべき著書『夢判断』を構想していた頃、フロイトは、友人に「イタリアが必要です」、「イタリアの芸術に深く入り込むつもりです」と何度も書き送っていた。イタリア旅行を開始してからも、しかし、なぜかローマにだけは足を踏み入れることができないでいた。イタリアとその芸術に憧れを抱く一方で、ローマには言い知れぬ恐怖を感じてもいたのである。その自分と向き合い、いわば自己分析することが、精神分析誕生の大きなきっかけとなった。
本講義では、フロイトの思想とイタリア旅行、その芸術との隠れた関係を明らかにしたい。 |

『フロイトのイタリアー旅・芸術・精神分析』 (平凡社2008年) |