第1回で紹介した白亜紀を語る上で欠かせない3つのキーワードを覚えているでしょうか?ここでは1つ目のキーワード、「とにかくあたたかい!!(グリーンハウス)」について詳しく紹介しましょう。「あたたかいといっても、温暖化(おんだんか)している現在に比べればたいしたことないでしょ!」と考えているそこのあなた、人類の常識だけにとらわれてはいけません。地球の途方もなく長い歴史の中では、人類が体験したことのない世界がしばしば広がっていたことがわかっています。
皆さんは、北極や南極というと氷におおわれた世界をイメージすると思います。現在のように北極・南極に氷がある時期のことを「アイスハウス(氷室期(ひょうしつき))」といいますが、私たちが知っているこのようなアイスハウスの地球は、過去5億4,000万年間の地球の歴史においてはどちらかというと珍しいということがわかっています。実は、白亜紀をふくむ多くの時代は、北極にも南極にも氷がない「グリーンハウス(温室期(おんしつき))」とよばれるとてもあたたかい環境だったのです。
過去の地球を知る1つの方法として、「全球平均気温(ぜんきゅうへいきんきおん)」というものがあります。全球平均気温とは、赤道から北極・南極まで、地球上の全地域の気温を平均した値のことであり、地球の状態を知るための目安として使われています。巨大な地球全体の平均気温を正確に求めることはとても難しいとされていますが、現在の全球平均気温はだいたい15℃くらいとされています。一方、白亜紀の中ごろは、全球平均気温が22℃ほどもあったとされており、地球の歴史の中でも特にあたたかかった時代の1つといわれています。
ただし、地球全体の気温が等しく今より高かったというわけではなく、赤道と北極・南極との気温の差が小さい(少し乱暴ですが、地球全体が今の熱帯や亜熱帯に近い状態というイメージです)という世界だったと考えられています。では、北極や南極の氷がすべてとけてしまった世界では何が起こるでしょうか?氷がとけて海水になると海の水の量が増えてしまいますので、海面の高さがその分だけ高くなってしまいます。 一説では、白亜紀中ごろの海面は、今の海面より150メートルから250メートルも高かったとされていますが、その主な原因の1つはこの氷の消滅だったと考えられています。もしも今、海面が150メートルも上がってしまったとしたらどうなるでしょうか?日本の海岸線に広がる大都市は、いずれも低い土地にありますので、海面が上がったら海に飲みこまれてしまうことでしょう。東京も大阪も名古屋も福岡も札幌も仙台も、すべて海の底になってしまうのです。
日本のような島国だけではありません。白亜紀の中頃には、巨大な海が広大な北アメリカ大陸を東と西に真っ二つにしてしまっていたことがわかっているのです。白亜紀の北アメリカ大陸には、東と西の高い土地の間に低い土地が広がっていました。海面がぐんぐん上がったことに加え、地殻変動(ちかくへんどう)でこの低い土地がさらに沈み込んでしまったことにより、この低い土地は海に沈んでしまいました。この海により、北アメリカ大陸は東と西の2つに分断されてしまったのです。この海は、当時北アメリカ大陸で暮らしていた恐竜たちにも大きな影響を与えました(詳しくは第4回でお話しします)。
一方、大陸をつらぬくこの新しい海は、海に暮らす生き物たちにとっては絶好のすみかとなりました。多くの魚やアンモナイト、巨大な爬虫類(はちゅうるい)(クビナガリュウなど)がこの海をゆうゆうと泳ぎまわっていたのです。その後、海面が低下したことや、ロッキー山脈を作った地殻変動による低い土地の隆起(りゅうき)が起こったことにより、この海は再び陸地となって消えてしまいました。 しかし、この海があった北アメリカ大陸の中央部からは、現在もたくさんの海の生き物たちの化石が見つかります。大陸のど真ん中から海の生き物の化石が見つかるというのはちょっとしたミステリーのようですが、これらの化石こそ、およそ1億年前にはそこに“幻の海”が存在していたというなによりの証拠なのです。
ちなみに、白亜紀の海には、カニなどの新たな捕食者(ほしょくしゃ)(ハンター)たちが登場しはじめました。これらの新たなハンターに食べられないために、海底に暮らす二枚貝などの多くの被食者(ひしょくしゃ)(食べられる側)たちは、海底の泥や砂の中にもぐったりたくさん集まってコロニーを作ったりして対抗するようになりました。このように、白亜紀は現在の海の景色がつくられはじめた時期でもあるのです。