白亜紀を代表する生き物といえば、なんといっても恐竜でしょう。三畳紀の中ごろ(およそ2億4,000万年前)には地球上に登場していたとされる恐竜ですが、ジュラ紀には多くの種へと進化し、陸上で最も繁栄していた動物となります。白亜紀に入っても恐竜のこの絶好調ぶりは止まらず、引き続き陸の王者として君臨(くんりん)しました。私たちが恐竜と聞いて真っ先に思い出すティラノサウルスやトリケラトプスが活躍したのも、白亜紀の終わりごろのことでした。
白亜紀の恐竜を語る重要なキーワードといえば、「羽毛」でしょう。ジュラ紀の終わりごろ(およそ1億5,500 万年前)には、羽毛をもつ恐竜(羽毛恐竜)が登場し、その後すぐに羽毛恐竜の中から最初の鳥が誕生したと考えられています。そして、羽毛恐竜グループと鳥グループがそれぞれに進化をした結果、白亜紀には羽毛恐竜と初期の鳥とが共に暮らす世界が広がっていました。白亜紀中ごろには、ティラノサウルスの祖先とされる全長9メートルの巨大肉食恐竜までもが羽毛をもっていたことがわかっていますので、白亜紀の恐竜たちの多くが体の全体もしくは一部に羽毛をもっていたのかもしれません。
水田記念博物館大石化石ギャラリーには、2体の羽毛恐竜化石が展示されています。1体はおよそ1億5,500万年前に登場した最古の羽毛恐竜アンキオルニス、もう1体は初期の鳥たちと共に暮らしていた空飛ぶ羽毛恐竜ミクロラプトルです。
このように大成功をした白亜紀の恐竜たちですが、白亜紀の特別な環境に合わせて進化しなければならなかったこともわかってきています。
白亜紀を語る上で欠かせないキーワードの1つめを覚えているでしょうか?「とにかくあたたかい!!」でしたね。第2回では、温暖化で北極・南極の氷がとけたことが原因の1つとなった海面の上昇などによって、北アメリカ大陸が真っ二つに分断されてしまった話をしました。
実は、この大事件は、恐竜にとってもとても重大な出来事だったのです。北アメリカ大陸を東と西に分断した深くて広い海は、最も深いところで深さ760メートル、最も広いところで幅970キロメートルもあったとされています。これでは、どんなに恐竜たちが泳ぎの達人だったとしても、東と西の陸地を泳いで渡ることはできなかったでしょう。
つまり、恐竜たちも海にはばまれて東と西の陸地を行き来することができなくなってしまったのです。そのため、恐竜たちは東の陸地(アパラチア大陸)と西の陸地(ララミディア大陸)で別々に進化をするようになり、それぞれの大陸でしか見ることのできない新たな種類の恐竜たちがたくさん登場しました。北アメリカ大陸のおよそ7,500万年前(白亜紀の終わりごろ)の地層からは、それ以前やそれ以後の時代の地層よりも多くの種類の恐竜の化石が見つかります。これは、恐竜がその時代で特に多くの種に進化したというわけではなく、海による陸地の分断という大事件が恐竜の進化にも影響(えいきょう)したことを今に伝える大切な証拠なのです。
ところで、白亜紀を語る上で重要なキーワードその2、「花を咲かせる植物の登場」については、第3回で詳しく紹介しました。このキーワードは、植物を食べる恐竜たちにとっても重大な変化であったことがわかっています。花を咲かせる植物が登場する前のジュラ紀を代表する植物食恐竜といえば、長い首と尾をもつブラキオサウルスなどのグループ(竜脚類(りゅうきゃくるい))や、背中の大きな板やトゲが特徴のステゴサウルスなどのグループ(剣竜類(けんりゅうるい))でしょう。これらの恐竜の歯やアゴは、あまり強力にはできていません。かたい植物をむしり取ったりすりつぶしたりすることはむずかしく、やわらかい植物をクシのようにすき取って食べるのに使われていたと考えられています。
一方、白亜紀に大繁栄した植物食恐竜といえば、頭のトゲとフリルが特徴のトリケラトプスなどのグループ(角竜類(つのりゅうるい))や、カモのようなクチバシをもつマイアサウラなどのグループ(鳥脚類(ちょうきゃくるい))です。これらの恐竜は、強力なアゴや植物をむしり取るためのクチバシ、植物をすりつぶすことができる特殊(とくしゅ)な構造(デンタルバッテリーといいます)の歯をもっていました。角竜類や鳥脚類は、これらを使ってかたい植物をもむしり取りすりつぶして食べることができました。一説では、これらの特徴は、それまでの植物よりかたい、花を咲かせる植物を食べられるように進化した結果ではないかと考えられています。花を咲かせる植物の繁栄に合わせて上手に進化することができたため、これらの恐竜たちは成功することができたかもしれませんね。